「俳句文法」入門 (56) 
─── 格助詞「へ」について その2 ───           大林明彦

 「へ」は体言(名詞)に接続する。語源は辺か。
 ①方向を表す。(…の方に。…に向かって。) 万葉集「秋風に大和越ゆる雁は…」
大空つんつん伸びて若みどり池内けい吾
大学通りてふ駅まつすぐ青葉風生江通子
父おはす島手を振る柚子の花乾佐知子
②帰着点を表す。(…に。)徒然草「仁和寺帰りて」
狛犬一太刀浴びせ杉落葉小島利子
日を返す川面茅花流しかな小林美智惠
鬼胡桃拾ひ稲荷供へけり根本孝子
③対象を表す。(…に対して。) 平家物語「鎌倉殿より公家へ申されたりければ」
跡取りの息子送る柏餅本間ヱミ子
喪の友選ぶ一書や走り梅雨深川知子
草取の母真つ先通信簿平賀寛子
④場所を表す。(…に。)平家物語「お庭祇候…」
つづくしじまや新樹光奈良英子
半時ほどの岩清水窪田明
武蔵野富士の降臨五月晴本郷民男
足元立浪草の波寄する真木朝実