韓の俳諧 (24) 文学博士 本郷民男
─ 朝鮮蕉風連合の登場 ─
京都の『俳諧鴨東新誌』の外国支部の結社として、台湾の台北と朝鮮の露光という一発屋が明治30年に現れたあと、『俳諧鴨東新誌』148号(明治31年2月)に、息の長い朝鮮の蕉風連合が登場しました。
吹くと見る雲なき空や春の風 朝鮮 湖月
船に笘葺きて煙らす時雨哉 朝鮮 蒲帆
拾ひ人も矢張り毬栗天窓哉 朝鮮 春夢
底抜けて月とり落とす釣瓶哉 朝鮮 春菜
蝶の寝て夢を流すや花筏 朝鮮 蒲帆
常に見る山も尊し初日の出 朝鮮 蒲帆
初草の道だけ除けて青みけり 朝鮮 蒲帆
不二だけは別なもの也小春空 朝鮮 蒲帆
風音も絶えて静けき初日かな 朝鮮 蒲帆
尊さや小楯の松も初日の出 朝鮮 蒲帆
見る我も見らるる我も霞哉 朝鮮 蒲帆
待つ風を柳に問ふや掛かり舟 朝鮮 湖月
青空を我が物振りや揚雲雀 朝鮮 湖月
水に置く月を供応芒かな 朝鮮 蒲帆
寂しさや寝覚の窓に打つ落葉 朝鮮 蒲帆
旅に寝て親の恩知る寒さかな 朝鮮 春湖
萬歳や我が家の春は後にして 朝鮮 亀城
我儘に育てば曲がる野菊かな 朝鮮 春菜
浪合の中に嶋山眠りけり 朝鮮 春湖
書初や恵方勝手の蔀窓 朝鮮 梅暁
山高ふ野は野で広し冬の月 朝鮮 春夢
松風の上に澄みけり鹿の声 朝鮮 亀城
春の風蝶の羽裏に見えにけり 朝鮮 湖月
2月分連合表
119人 天草分社 105人 肥後 天草北部 100人 近江 古池 89人 甲斐 桂涯 47人 神戸 神戸 38人 後志 帆蕉社 37人 朝鮮 蕉風會
先行した台北と露光は6人と9人で、最下位で登場しました。それに対して、蕉風會は堂々と7位に入りました。肥後の天草は人数が多くて結社を分けていますが、それでも1位と2位を取りました。
朝鮮とだけあって、蕉風會の俳人の居住地や本名は、ほとんどわかりません。かろうじて、元山(ウォンサン)の大塚蒲帆と比田勝春湖の存在からみて、東北部の元山が拠点のように思われます。蒲帆は明治21年、春湖は明治23年の『俳諧鴨東新誌』に名が見えます。正岡子規がまだ一高の学生だった頃です。子規が新聞『日本』に入社したのは、明治25年です。結社名が蕉風會とあるように、彼等は蕉風俳諧として句を詠んでいたのであり、日本派の俳句ではありません。
2月号では蕉風會ですが、以後は蕉風です。6月には62人で3位、7月には58人で4位と、蕉風は長く続きました。そして、一旦鳴りを潜めた台湾勢ですが、明治36年1月には、台湾の交風が87人で1位になりました。そのように、旧派の『俳諧鴨東新誌』の投句は、海外勢を無視できません。今日の船便による郵送よりも、むしろ早かったと思われます。正月の句が、2月末の2月号に載るほどです。
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