韓の俳諧 (45) 文学博士 本郷民男
─ 忘れられた朝鮮公論⑥ ─
前回は横井迦南が大正5年(1916)に、彌生という俳号で雑誌『朝鮮公論』へ登場したことを書きました。その次はどうであったか、他の文献も利用して追いかけて見ます。
雑誌『朝鮮及満洲』大正5年11月号
習字する兒の手暗がりや夜寒の灯 迦南子
朝寒や泣きやまぬ子に妻を呼ぶ 同
『朝鮮及満洲』大正5年12月号
一時雨して森の日の暮れにけり 迦南子
針持てば妻尻重や小春縁 同
『朝鮮及満洲』大正6年1月号
涸沼に吹き下ろされし鴉かな 迦南
荷ばかりに馬車出す軒の氷柱かな 同
『朝鮮及満洲』大正6年2月号
濠の中に鴉が落とす松の雪 迦南
谷底に陽の力なき氷かな 同
『朝鮮公論』大正6年2月号
間借り住んで馴れぬ水仕や目刺焼く 彌生
■天
龍山鉄道官舎七九ノ五 彌生 横井時春
底曇りの波音近き焼野かな
『ホトトギス』大正6年4月号各地句会報
朝鮮 浮城会2月例会(京畿道、京城)
荷捌きに街さゞめくや春近し 迦南
『朝鮮公論』大正6年7月号
後ろから来て肩打ちし扇かな やよい
■天
龍山鉄道官舎七九ノ五 やよい 横井迦南
撫子の縁や鏡の曇り拭く
『朝鮮公論』大正6年10月号
■天
龍山鉄道官舎七九ノ五 やよゐ 横井迦南
燈籠のゆらげば動く一間かな
『朝鮮公論』には大正5年を通じて彌生で投句した迦南ですが、同年9月には『朝鮮及満洲』に迦南子として投句を始めました。同誌の俳壇は、楠目橙黄子と池田義朗が交代で選者のホトトギス系です。『朝鮮公論』には大正6年2月に彌生、7月にはやよい、10月にはやよゐとして掲載されました。
大正5年の年末にはホトトギス系の俳人・迦南として活動を始めました。橙黄子「京城の俳句界と私⑺」『松の実』大正10年7月に、迦南が出てきます。朝鮮総督府鉄道局内に句会があり、迦南はそこで研鑚していました。大正6年2月に京城で浮城会が開かれ、迦南と楠俚人が初めて参加しました。橙黄子・迦南・俚人の三人とも龍山に住んでいたので、句会の後に同じ電車で帰りました。それがホトトギスの4月号に、句会報として載りました。迦南はホトトギスの雑詠にも句が載り、『朝鮮及満洲』を主戦場とします。
俳諧に生きて盛夏にある身哉
障子開けて部屋一杯の旭や福寿草
大正6年の暑中見舞、大正7年年賀を横井迦南として送り、『朝鮮公論』と別れました。
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