韓の俳諧 (48) 文学博士 本郷民男
─ 修行時代の日野草城① ─
日野草城(1901~1956)は、少年時代を韓半島で育ちました。初学の頃があまり解明されていません。草城は自伝(「一ト昔の二分の一弱」と同續『松の実』、「朝鮮時代」『俳句』)を残しています。
京城中学五年生の大正6年夏に、半島北東海岸の淸津(チョンジン)へ帰省しました。父の梅太郎が淸山の号で「木の芽會」の会員だったので、句会に出席しました。芋の秋の号で「薬水を甕にみたしぬ閑古鳥」が、初作です。同年9月に父が京城へ転勤となり、下宿住まいから親と同居になりました。京城では同じく転勤した父の同僚を中心に「くれなゐ會」ができて芋の秋も会員となり、年末に草城と改号しました。
大正7年8月に草城としてホトトギス雑詠へ入選する直前に、雑誌『朝鮮及満洲』の池田義朗選・朝鮮及満洲俳壇へ、草城の句が載っていることを見出しました。
クリスマスの鐘が鳴り出す月夜かな 4月号
焚火すや碧蹄館の朝月夜 同
轍深くたんぽゝ小さく咲きにけり 同
たんぽゝや下水を通ず小工事 同
草枯や列車いつまで野を走る 同
大江の楊州に入る柳かな 5月号
囀りや城壁を崩す日毎日毎 同
春雨に濡れて淡さよ電氣燈 同
ふくらみて大河流るゝ春の雨 同
置きし帽取れば蒲公英ありにけり 6月号
薬水に若葉の風や閑古鳥 同
芥子咲くや汽車の吐息に近き家 同
草城は7年3月に京城中学を卒業し、受験勉強をして7月に京都の三高を受験し、合格して9月から三高生となりました。そういう時期に、くれなゐ會に顔を出し、ホトトギスや『朝鮮及満洲』に投句していました。調べてみると、昭和2年の第一句集『花氷』に、4月号入選の五句中三句が入っています。「クリスマスの」「たんぽゝや」「草枯や」の三句です。対照的なのが、大正7年のホトトギス雑詠入選句です。
驛の櫻灯火を得て汽車に近し 8月号
島廳や訴人もなくて花芭蕉 9月号
金剛山麓長箭港にて
金剛眞向に汽船(ふね)の日除や灣夕日 10月号
コスモスや牧師の妻の尖りあご 11月号
初入選句群として『花氷』に載せるどころか、四句とも載っていません。「驛の櫻」は六・六・六の破調であるし、虚子はろくでもない句を選んで入選させたかのようです。
草城は少年時代に学び、才能を認めてくれた久世車春・前田普羅・原石鼎・楠目橙黄子を、終生にわたり師として敬愛しました。最初の師である久世車春は、日野草城を弟子としたことを、俳句人生の誉としていました。
草城は後にホトトギスから除名されましたが、最初から虚子を良き指導者・選句者とは、思っていなかったかも知れません。
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