日本酒のこと 
  第1回 日本酒とワインの違い       安原敬裕

 明けましておめでとうございます。今月号から日本酒関係のエッセーを執筆させていただく安原です。どうか宜しくお願いいたします。
 勿論、日本酒とワインは異なりますが共に醸造酒という共通項を持っています。醸造酒とは、糖分を酵母菌(イースト)で発酵させて造るお酒のことです。他方、ブランディや焼酎はこの醸造酒を蒸留して造るアルコール度数の高いお酒のことです。
 今回は、日本酒の持つ特徴を説明するために、ワインとの造り方の違いを説明します。ワインの材料は葡萄です。葡萄は果実であり、葡萄自体がアルコール分解に必要となる水分、糖分、そして酵母菌を有しています。
 私が子供の頃のことですが、広島県福山市郊外の農村部では食用の葡萄栽培が盛んであり、近所から頂いた屑葡萄を甕に入れ葡萄酒を密造するのが通例でした。帰宅すると台所から良い匂いが立っており、何かと思って柄杓で掬うと甘い葡萄ジュースでした。日に日に発酵が進む甕のジュースを密かに嗜むことにより、小学生にしてアルコールの魔性を知ることと相成った訳です。要は、ワインは葡萄を潰して甕に入れるだけで造れます。
 一方、原始的な日本酒である「どぶろく(濁り酒)」は、蒸した米に麴菌と水を加えて甘い液体を造り、これに酵母菌を加えてアルコール発酵させたものです。その理由は、米は水分も糖分も酵母菌も持たないので、人間が人工的にこれらを加える必要があるからです。その昔は、収穫した新米からどぶろくを造り祭事や家庭で嗜んでおり、新酒やどぶろくが秋の季語であるのも、そのような昔の風習に因るのだそうです。現在では、新米を使用しても新酒が出来上がるのは通常12月となり、季語とのズレが指摘される所以です。
 さて、酒蔵における日本酒の造り方は相当に複雑です。ごく簡単に工程を述べると、「酒造に適した米を精米する」、「精米を蒸す」、「蒸米に麴菌を加え糖化する」、「麴米に酵母菌と水等を加えて酒母を培養する」、「タンクに酒母、蒸米、水を加えアルコール発酵させる」、「タンク内の醪もろみ(白くドロドロした液体)を搾る」 等の作業が必要です。この点については、また別の機会に追い追い触れることにし ます。この工程で解るように、日本酒は米という農産物を材料として、何段階も の加工工程を経て造る工業製品と云えます。併せて、米の種類、精米の度合い、 酵母菌の種類等で日本酒の味や香りに大きな違いが出てくるため、この分野での 技術開発の競争が熾烈となっています。
 勿論、我々がグラスで愛飲するワインも様々な工程を経ますが、基本は葡萄と いう農産物を加工した製品と云えます。つまりワインの良否は葡萄の品質次第で 決まるため、醸造家は天候の加護を祈りつつテロワールと呼びますが、より良い 土壌探しや土壌改良、栽培方法の改善等に最大の工夫と労力を注ぐのだそうです。