日本酒のこと (30) 安 原 敬 裕
「ラベルは語る(上)」
日本酒の瓶には、表側に「多摩自慢」や「賀茂鶴」といった銘柄等を印刷した胴ラベルが、そして裏側には原材料名やアルコール分等を細々と記した裏ラベルが貼ってあります。なかには胴ラベルに全てを記載している場合があります。このラベルに記載された情報は、我々が酒販店等で自分好みの一本を選ぶ際の大きな判断材料を与えてくれるものです。
さて、日本酒のラベルに表示すべき内容はお酒を管轄している国税庁が規定しており、表示の義務付けがある「必要記載事項」と、それ以外の「任意記載事項」に区分されています。その必要記載事項としては、「清酒又は日本酒」「原材料名」「製造者の氏名又は名称」「製造場の所在地」「内容量」「アルコール分」「製造時期」「二十歳未満の飲酒の禁止の表示」が規定されています。
個別に説明すると、最初の「清酒又は日本酒」は、この酒は日本において日本産の米で製造された清酒であることを意味しています。次の「原材料名」は、米と米こうじが基本であり、醸造用アルコールや糖類等を添加している場合はその旨を記載します。また「製造時期」とは日本酒を瓶詰めした年月のことですが、この日付を賞味期限と勘違いする方がままおられるので呉々もご注意を。あとの事項は時間の無駄なので省略します。
既に29回を数えるこの欄では、「日本酒は吟醸酒や純米酒等の特定名称酒と普通酒に区分されること」「日本酒の香味は米の種類や精米歩合、仕込み水の硬度、清酒酵母菌の種類等に左右されること」「最も大きな影響を与えるのは清酒酵母菌であること」「伝統的な生酛や山廃造りは濃厚芳醇な香味に特徴があること」等について縷々述べてきたところです。既に豊富な知識を身につけられた皆様から見ると、これらの必要記載事項だけでは余りにも情報が少なく物足りないと思われると思います。
そこで登場するのが任意記載事項であり、ここでは虚偽や誤解を招く表現以外は原則自由です。私の手元に山廃酒で有名な白山市の「菊姫・鶴乃里」があります。先ず「山廃純米酒」である旨を記載した上で、原材料名の「米・米こうじ」に続けて、原料米として「兵庫県三木市吉川町 特A地区産山田錦100%使用」、さらに「精米歩合65%」と表示しています。つまり、このお酒は山廃造りの純米酒であり酒造米は最高峰の山田錦、それも最高級品種である特A地区の米だけで醸した高品質なお酒であることを消費者に向けて訴えているのです。
このように、消費者へのアピールポイントは当然といえば当然ですがこれでもかと目いっぱい記載されます。対して、特別の売りのない平凡なお酒は先の必要記載事項だけで済ませます。この雄弁に語るラベルは日本酒選びの際の大きなガイド役となります。その点については次回に改めて触れたいと思います。
岩魚酒こぼさぬやうに飲みにけり皆川盤水
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