今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2018年7月号 (会員作品)
芽起しの雨に明るき阿弥陀堂竪ヤエ子
花冷えや少し遅れて来る列車正田きみ子
芳香は庭の隅より柚子の花中村岷子
眠る児の指ひろがれり辛夷咲く須藤真美子
廃線の最終列車青葉木菟清水和徳
鑑賞の手引き 蟇目良雨
芽起しの雨に明るき阿弥陀堂
どこの阿弥陀堂も豊かな自然の中に配置されている。阿弥陀浄土はそうした中にあると日本人は信じて来た。明るい芽起しの雨が作者の眼前にも、阿弥陀浄土にも降っていると思わせる素直さがこの句にはある。
花冷えや少し遅れて来る列車
花見の後の光景だろう。帰路列車を待っているが遅れて到着する。このわずかな遅れが花冷えを実感させてくれた。作者の鋭敏な感覚。
芳香は庭の隅より柚子の花
柚子の花は、木が大きくなると見上げなければ見つけられない。ただ香りのみが漂ってくることがある。作者も柚子の木の存在を忘れていたのではないか。香りの誘われて庭を確かめると庭の隅には確かに柚子の花があった。我が家の庭を再発見した瞬間。
眠る児の指ひろがれり辛夷咲く
上五中七と下五は関係がない。お孫さんだろうか抱っこしているうちに眠ってしまった。ぐっすり眠ってしまった安堵感から指を広げたのだろう。幸福な瞬間である。ふと上を見あげると辛夷も同じように拳を開いている。自然の中に生かされている幸せを感じる作者。
廃線の最終列車青葉木菟
さっきまで廃線の最終列車を記念する行事の喧騒があったのだろう。それが終り静けさに満ちた終着駅の森から青葉木菟の哀しい声が聞こえて来る。漢字を多用した一見重苦しい句づらであるが内面に籠められた繊細な感情が読者を句の世界に引き入れる。
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