今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2019年11月号 (会員作品)

浅間嶺は雨に煙りて蕎麦の花上野直江

新聞をまとめて読むも盆の頃林美沙子

竹伐りて父手作りの笛を吹く末重敏子

押し戸繰る音の軽さや今朝の秋船山励三

かなかなや忙しき頃の母をふと横山澄子

鑑賞の手引 蟇目良雨

浅間嶺は雨に煙りて蕎麦の花
 しっとりとした写生句。音もなく静かな浅間高原の景色が描かれた。何も足さない、何も引かないぎりぎりの表現が句を豊かにしている。

新聞をまとめて読むも盆の頃
 新聞を隅から隅まで丹念に読むと1時間以上かかる。隠居さんならいざ知らず、毎日多忙な主婦には中々出来ない。盆休みだからこその余暇を得て出来ることと納得。

竹伐りて父手作りの笛を吹く
   竹は身近な材料であったはずだが、現在では竹で遊ぶことが少なくなった。子供なら竹トンボ作りを始め杉の実鉄砲など様々な物を作って遊んだものだ。笊や籠や箕造りなどの専門家以外に遊びで笛を作って吹く父は少年時代をこんな環境で育ったのだろう。父を懐かしむ句。 

押し戸繰る音の軽さや今朝の秋
 押し戸は、玄関のドアのように押せば開く戸のことであるから、玄関の戸を推したら軽く開いた驚きに今朝の秋を感じたと鑑賞してもいいが、一歩進んで、裏木戸を押して開けて外に出た時の驚きと鑑賞したほうが趣が出ると思うがどうだろうか。

かなかなや忙しき頃の母をふと
 かなかな蟬に纏わる思い出はそれぞれの人がお持ちだろうが、作者は母の忙しく働くときのことが思い出されるといっている。まだまだ暑い頃の朝や夕方を母上が忙しなく働いていた思い出がどんなものか読者には分からないが、ある年代以上の方には夫々が自分の母の思い出を当てはめることが出来るはずだ。