今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2019年12月号 (会員作品)

村芝居はねて残れる首白粉尾碕三美

ゆるやかに草のふれ合ふ白露かな木曾令子

新涼や糊のききたる調理服高村洋子

藁屋根の軒をあまさず吊し柿池田年成

鑑賞の手引 蟇目良雨

村芝居はねて残れる首白粉
 村芝居は地方の人の大きな楽しみの一つ。収穫を終えて自らへのご褒美のように芝居に興じる。素人芝居ながら一朝一夕で出来るものでなく長い時間をかけて練習してきた賜物だ。芝居がはねても首白粉だけは残したままに余韻に耽っているところを捉えて秀逸。

ゆるやかに草のふれ合ふ白露かな 
 白露は二十四節季のひとつ。陰暦八月に入って夜間気温が低下して大気中の水蒸気が露となって草葉につくようになる現象が見られることから白露と呼ばれる。庭の雑草の揺れ方の変化に気が付いた作者の写生眼が獲得した作品。実際に露は結んでいなくても空気の重たさが草の動きに変化をもたらしたのであろうか。

新涼や糊のききたる調理服
 「糊のききたる割烹着」という表現はこれまでに多くあるが、これは家庭の光景になる。「糊のききたる調理服」となるとレストランとか調理学校の光景になるだろう。なかなかこうした場面は俳句にし難いが、調理服という言葉に意外性があり新鮮に見えた一句。

藁屋根の軒をあまさず吊し柿
 藁葺屋根の軒の一面を隙間なく干柿の簾で埋め尽くした光景である。空間を余さずに吊ってあることに作者は柿農家の熱意を感じたに違いない。仮に〈藁屋根の軒にずらりと吊し柿〉の句だと写生のもの足りなさを感じさせてしまう。注意したいところだ。