今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2019年4月号 (会員作品)

雪折の枝先のなほ空を向く正田きみ子

砲弾のやうな鮪をせり落とす綱島きよし

樋に一列夕日まみれの寒雀岡島清美

柞そはの母の雑煮の具だくさん鍋島こと

紅茶手に立ちし窓辺や雪起し深田良子

初声を高みより聞くめでたさよ青木晴子

鑑賞の手引 蟇目良雨

雪折の枝先のなほ空を向く
 雪折は雪の重みで折れてしまった木々のこと。松や杉や竹なども折れることがある。その折れてしまった枝先が折れる前と同じように空を向いている様子に感動した作者。例え一部が欠けたとて雄々しく生きようとする自然の力に感動したに違いない。

砲弾のやうな鮪をせり落とす
 魚市場での嘱目。生であれ冷凍であれ鮪の魚体は砲弾の形をしている。まぐろは泳ぎ続けなければ死ぬ魚。水の抵抗が少ない形をしている。砲弾もまた同様に空気抵抗が少ない形。自然の原理を魚市場で確認しようとは・・・。

樋に一列夕日まみれの寒雀
 住宅事情が変わっても樋はいつまでも残っている。屋根から落ちる雨水が飛び散って近所に迷惑を掛けないようにする日本人のエチケットの現れ。落葉が溜まったりして掃除が大変だが寒雀が夕日を浴びながら暖を取っている光景はほっとさせてくれる。

柞そはの母の雑煮の具だくさん
 母の作る雑煮は具沢山ですよと言う事を言っただけだが「柞そはの母」といったことでなつかしさが増す。母への敬慕の念に満ちていることが伝わる。言葉の持つ魅力を充分に利用しましょう。

紅茶手に立ちし窓辺や雪起し
 家の中で紅茶を飲む時間帯は昼下がりだと思う。雪の中を歩いて家に帰り寛いでいるのかも知れぬ。そんな時の雷鳴。安堵感が伝わってくる。

初声を高みより聞くめでたさよ
 「高み」を自宅の高層マンションとして鑑賞した。元朝に窓を開けたらどこからか鳥声が聞えてくる。ああいいお正月と思う瞬間だ。今どきの言葉で言えばタワマン住まいも良いものだと思わせる句。