今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2019年5月号 (会員作品)

かたくりや村人だけの通る道上野了子

一番星出たら帰らう麦を踏む草野准子

春の水た走り水車廻り初む廣仲香代子

廃線の鉄路のあはひ草萌ゆる池田年成

一滴の点滴眺め春を待つ鈴木ルリ子

古びたる網の焚付け雁供養太田直樹

ひそやかにいつものやうに座禅草野尻千絵

鑑賞の手引 蟇目良雨

かたくりや村人だけの通る道
 かたくりの咲く土地柄は薄日が射すのだがじめじめしたところ。耕作に不向きであるところが多くかたくりのためにだけあると思われるほどだ。村人だけが通るひっそりした道である。

一番星出たら帰らう麦を踏む
 麦踏みは絵になる景色だ。農家の子供が学校帰りに、一番星が出るまで踏もうと鑑賞することもできる。何故麦踏みをするのか。霜で浮き上がる芽を押さえつけるために踏むとか、踏んで芽を痛めつけることで成長を促すとかの理由があるようだ。

春の水た走り水車廻り初む
 冬の間休んでいた水車が春になって廻り始めた様子が生き生きと描かれている。「た走る」水は雪解け水のように勢いを持っている。それが「た走る」に写生されている。

廃線の鉄路のあはひ草萌ゆる
 廃線になるまでは雑草もしばしば取り除かれていたものが、今ではどこにも雑草が生え始めている。鉄路のあはひと正確に写生したことによりはっきりと像が見えるようである。廃線の言葉が重い。

一滴の点滴眺め春を待つ
 入院中の無聊をかこつだけでなく春を待つ心を一滴の点滴に託している。一滴一滴の薬剤により病が癒えるはずだと春を信じて待っている作者。

古びたる網の焚付け雁供養
 雁風呂の焚付けにするものが古い漁網であるという句。漁網の切れ端は、青森に伝わる雁供養伝説の素材に相応しいと思う。直ぐそばに漁師の生活が見えるようである。

ひそやかにいつものやうに座禅草
 座禅草の生えている場所は決まっているのだろう。今年もいつもの場所にひそやかに座禅を組んでいるように見えると作者は擬人化している。