今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2020年7月号 (会員作品)

崩崖(あず)の上に山藤垂れて静まりぬ桑島三枝子
腰掛けて時折休む鳥曇池田栄
夏来る野菜サラダを大盛りに楢戸光子
初花は別れの季節志学の子下地明三
郭公の谺重ねて暮れなづむ堀田知永
潮干狩海の匂ひを掘りおこし河村綾子

 

鑑賞の手引 蟇目良雨

崩崖(あず)の上に山藤垂れて静まりぬ
 景色としてはそれほど美しいものではないが、崩崖(あず)という上手い表現が句を引き締めた。作者はつくば市の方、東日本大震災により崩落した山や丘が未だに露出しているのだろう。しかし流石に10年の歳月が山藤を垂らせるほどに景色を回復させてくれたのである。下五の静まりぬが鎮魂の意思。

腰掛けて時折休む鳥曇
 作者は山形の方。帰る鳥たちの通路にあたるのだろう。頭上を飛びさる帰る鳥の列を見ながら時折腰かけて休む作者は、鳥たちも「時折休みたかろうに」と思っているに違いない。

夏来る野菜サラダを大盛りに
 昔は夏になると、胡瓜やトマトや茄子が一時に採れた。胡瓜を齧ったり、トマトをほほばったことはあったが、野菜サラダにして食べる習慣は無かった。現代こそ野菜サラダの効用を説く時代は無いだろう。値も高い野菜サラダを大盛で食べられるのはまさに夏が来たからである。

初花は別れの季節志学の子
 作者は沖縄の方。沖縄で無くても桜の季節は進学、転勤で別れの季節である。しかし沖縄から本土などへ島外への進学となると分れの寂しさはひときわ高いものがあるだろう。初花をみてすぐに別れを思い出すのはこの地方の習慣なのだろう。

郭公の谺重ねて暮れなづむ
 郭公が谺し合いながら暮れて行くなんてなんと素敵な環境であることよ。

潮干狩海の匂ひを掘りおこし
 砂浜の砂を一生懸命掻いて海の匂いを掘り起こしているとは新発見である。