今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2022年2月号 (会員作品)

冬銀河別れはいつも突然に野村雅子
 「別れはいつも突然に」のフレーズはままあるが、冬銀河が効いている。冬銀河を見上げて知己との別れを偲んでいると冬銀河から星が零れ落ちる。それはまるで別れてゆく人の残像だ。同時作〈禁断の密の楽しさ焼鳥屋〉は現代を風刺した作品。こうした挑戦も句の幅を広げるために必要。

雪蛍やうやく解る父のこと金子正治
 老境に入り、父の来し方を思い返してみてようやく理解できるようになったのは、雪蛍のように無の心境で宙を漂う心を得たからか。極小の雪蛍から大きな心の世界を得た。         

綿虫の青空をとぶ別れかな竪ヤエ子
 綿虫が漂うのではなく飛ぶ様子に着目。作者はそこに異変を感じたのか。綿虫との別れが人との別れを暗示している句。

青白き山を煙らせ炭を焼く高橋ヨシ
 炭焼きの山の景色。紅葉から枯葉に変った山の色がさらに青白く見えるのはうっすらと初雪が山を覆ったからか。同時作<火入れして板戸へ記す炭上げ日>も炭焼きの様子が具体的に分かる。

残菊や傷みの中の新たな黄藤沼真侑美
 残菊を哀れと思うだけでなく、傷ついた花をよく見れば蕊に見える新たな黄色が生命の復活を思わせてくれる。同時作<冬温し尖る心を持て余し>は乱世を厭わない作者の強い心か。

捨て置きの石臼も景竜の玉加藤寿雄
 俳句が出来ないと嘆く人は見習って欲しい。捨てられた石臼の周りに竜の鬚が生え、さらに竜の玉に気づいたことを一句に仕立てた。よく見かける光景をそのまま放置しない執念が必要。同時作〈冬耕や産土なればねんごろに〉もふるさとなればこそ懇ろに冬耕を行う農民の心持ちが出ている。

石祀る里の産土亥の子餅岡本利惠子
「石祀る里」で石舞台古墳の村の景色が思い浮かぶ。いかにも亥の子餅を祝うに相応しい土地と思わせる。

二上山をつかの間焦がす寒落暉田中せつ子
 「焦がす」が二上伝説を暗示。ロマンにあふれる一句になった。

鯨来て七島の海ひと敲き衛藤佳也
 漠然と思えるが雄大な作り方。北斎の絵の構図が思い浮かぶ。         

重文の校舎の子等や隙間風藤原弘
 重文に指定されて隙間風に悩む困惑の生徒の顔が見える。同時作<冬瓜汁淡きに妻の隠し味>ようやく妻の有難さが分かって来たか。