今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2022年11月号 (会員作品)
酔芙蓉より始まれる暮色かな弾塚直子
酔芙蓉の色の変化を観察し、黄昏の色は酔芙蓉から発していることに合点した。ほのかな薄くれないが少しずつ茜色を帯びてゆく。酔芙蓉から妖気のようなものが発しているようにも思える句。見ている作者の心の暮色も定まった。
白といふ激しき色に滝の水鳥羽サチイ
<白といふ激しき色を花菖蒲 鍵和田秞子>という先例があるので余り褒めることは出来ないが、瀧の落下中の水の色、落ちて渦巻く滝壺の水の色を激しい白に感じた感覚は理解できる。同時に先例を避ける粘り強い努力も求められる。心しましょう。
新涼や触診の指あたためて飯田畦歩
新涼の頃はまだ暖房器具など出していないので指を温めるために口元に指を近づけて息を吹きかけている動作が見えるようだ。患者に不快な思いをさせまいとする優しさが中心にある。
稲妻の一閃雲のまがまがし澤井京
雷や稲妻は気流のぶつかり合うときに発生する。闇夜に稲妻が走ったときに雲の形が禍々しく見えた驚きを句にした。一瞬の光景を具象化した作者のお手柄。
朝な朝な擂りし林檎も今供物林美沙子
林檎をすりおろして毎朝与えていたのだが、今はお供え物として仏前に上げていますという内容。すりおろした林檎を作者も味見しながら故人を偲んでいることだろう。
別院へ誘ふ斑猫南谷佐々木加代子
盤水先生の<月山に速力のある雲の峰>句碑が羽黒山南谷への道にある。南谷の別院は芭蕉・曽良が奥の細道で訪れ天宥上人に会われたところ。今は草深くて判然としなくなったが、斑猫(道教え)が案内役をしてくれる。
見上ぐる子背くらべする子日輪草峯尾雅文
単純な構図ながら向日葵のある景色が生き生きと出ている。子供たちが見上げたり背比べをしたりと賑やかな声が聞こえて来そう。向日葵を日輪草と表記しておや?と思わせる効果があった。
爽やかや水琴窟のひと雫守本美智子
水琴窟は俳句になり難いが、水琴窟の中に落ちる一滴の雫に焦点を合わせて爽やかな季感を現わして成功したと思う。ひと雫は言わずもがなに水琴窟の中で爽やかな音を立てる。
※注目した句
故里の雨の匂ひや盆支度山宮有為子
跡継ぎの僧の膝打つ秋扇岡本利惠子
時計草鼠のごとく女医走る林由美子
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