今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2022年6月号 (会員作品)

茎立や老いて現役押し通す林美沙子
  季語が実に適切に選ばれている。茎立は「薹が立つ」と言われるように大根や蕪が子孫を残すために茎を高く伸ばし花を咲かせるために根の栄養分を失ってしまい商品価値がなくなる事でもある。老いて現役を押し通す作者の意地が茎立を通してひしひしと伝わってくる。茎立の後に咲く大根の花は中々美事なものである。 

大空の鼓動を指に凧を揚ぐ飯田畦歩
 遊ぶときは徹底して遊ぶとこんな佳句に出会うことが出来る。空高く揚がっている凧の糸を指で握りしめていると高空で風に抗う凧の唸りを感じる。これを大空の鼓動と把握した作者の詩心が秀逸。同時作<騙されて少し嬉しき四月馬鹿>も俳諧に遊ぶ姿勢が好もしい。

鳥帰る新聞小説最終章中村宍粟
 新聞小説最終章という素材で俳句が作れるとはベテランの境地だと思う。確かに、春めく新年度を迎えるころ、新聞の連載小説は作者が交代する。そういえば鳥も北国へ帰り、新しく夏鳥に交代する季節になったと感じて一句が成った。そして少しの寂しさも。

近づいて山見失ふ古都の春青木典子
 この場合の古都は京都で、山は東山と思えば理解しやすい。市内の中心部から東山に近づこうとしているといつの間にか建物に視界が遮られて東山の存在を見失ってしまう。多分誰もが感じたことのある体験を一句に仕立上げた作者の冷静な写生眼を称えたい。同時作<初蝶を捉へし猫は左きき>もよく見ていると感心した。

画眉鳥の物真似上手四月馬鹿平向邦江
 画眉鳥は中国の愛鳥家がその鳴き声を愛でて飼う綺麗な小鳥である。日本に輸入されたものが逃げて山野に生きのびている。高尾山周辺に見られる。この句の通り鳴き真似上手である。画眉鳥は鶯のように季語になっていないのでどんな季語を組み合わせたらよいかと悩んだに違いない。例えば鶯の鳴き声かと思ったら実は画眉鳥の声に騙された自分を四月馬鹿と見立てた作り方は秀逸。

一生涯主婦かも知れず囀れり高瀬栄子
 男は男なりに、女は女なりに人生を省みて何かを感じる時がある。私なら科学者になりきれず俳句の世界で遊ぶようになったことを少しの後悔を交えて感じている。作者は早くから専業主婦になったのだろうか。それでも俳句を知ったことでこれからも元気に囀って生き抜こうと腹を決めた一句。

  以下注目した句。

行基会や柴燈護摩に法螺唸り岡本利惠子
囀や蘆花書屋へといざなはれ小林隆子