今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2024年2月号 (会員作品)

文化の日電波時計の電池替ふ小島利子
 文化の日に何か特別なことをやる人は少ないだろう。快晴に恵まれるということと、文化勲章の授与のこと位しか思い浮かばない。明治天皇の誕生日が文化の日に名前を変えて生き残っている事実は押さえておこう。正確な電波時計でも電池交換をしなければ役に立たないことを知るだけでも文化の日に相応しい。同時作<蕎麦を刈る水車の音を聞きながら>は蕎麦の存在で景色が山畑に絞られて生き生きしてきた。

鶺鴒の先達めきてつと走り廣仲香代子
 セキレイの動きを観察して得られた。尾を盛んに振りながら前に進んでゆく。これを先達と見做したところが発見だ。

既視感の只中にゐて苑小春弾塚直子
 既視感(デジャヴ)はよく体験するが一句に入れ込むには難儀する。冬なのに暖かい日である小春日和は人が胎内にいた時のように安らぎを与えてくれる。苑内でボーっと過ごすひと時らしい句になった。

ぼろ市や木洩れ日が壺煌めかす島村若子
 ぼろ市に並べられた骨董めいた壺に木漏れ日が当たって生き生きさせた。安物に価値が付いたようだ。一瞬をしっかりと見て写生した。

紅葉晴ヤーソレオーと蹴鞠祭日浦景子
 中大兄皇子と藤原鎌足が蹴鞠をしながら共謀して、蘇我入鹿を倒す計画を立て美事成功して大化の改新が行われたと言い伝えのある奈良談山神社の蹴鞠の一こま。取り囲む紅葉と掛け声が古代へいざなう。

地下足袋に替へ鷹匠となるをみな大胡芳子
 放鷹の行事に参加した女性が地下足袋を履いた瞬間から鷹匠になり切ったところを一句に仕立てたのだろうか。現地まではスニーカなどで来たのだろう。地下足袋の効果抜群である。

柏手のそびらにふれて柿落葉鈴木さつき
 柏手を打つ人の背中を柿落葉が掠めたという構図。省略の表現が的確である。

朝の日にきらめく河口沙魚を釣る大塚紀美雄
 汽水の河口は鯊などの適地である。早朝はよく釣れるし気持ちが良い。作者の気持ちの若さも表現されている。

朝な夕な富士を崇めて冬籠小林美智子
 冬ごもりながら朝夕に富士山を崇める生活は捨てたものではない。ふるさとに感謝する毎日と思う。

目貼せる母の傍ら糊を溶く関野みち子
 現代の子には分からないだろうが、嘗てはどこの家庭でもこんな風景があった。隙間風を防ぐために建具と枠の隙間を紙を貼って塞いだ。母と子の会話が弾む。

はやばやと囲ひを終へて雪を待つ十河公比古
 雪囲を早々と済ませていつ雪が降っても良いぞと待ち受ける余裕の句。まだ雪が降ってないから言えるが、実際に毎日降って積もり上がったらこうは言えなくなる予感がひとつの諧謔か。