今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2020年4月号 (会員作品)

鏡餅蔵に仕掛けし鼠捕り成沢妙子
田を走る子の連凧が大空へ山下善久
元朝の御空は広し朱鷺の舞ふ鳥羽サチイ
やはらかき外灯に浮く梅の花楢戸光子

鑑賞の手引 蟇目良雨

鏡餅蔵に仕掛けし鼠捕り
 蔵にも鏡餅を飾り、その蔵に、鏡餅が傷つかぬように鼠捕りを仕掛けましたという、省略の利いた表現が秀逸。蔵のある生活なんて羨ましい限りである。

神祀ることも簡素に七日粥
 神を祀ることは一家の平安や健康を祈ることが目的である。その神を祀ることを簡素にして松明けの七日粥を戴きましたという内容。松の内に十分神に尽くしたことによって初めて言えることだと思う。更に付け加えるならば老い先は短いのでもう神頼みは十分という気持ちが潜んでいると思わせる一句。

田を走る子の連凧が大空へ
 凧は春の季語である。正月の場合は「正月の凧」と表現する。田は春になれば米作りにかかるからそうそう入ることが出来ない。しかし子供が連凧揚げに夢中になって揚げよう揚げようとして夢中になって田を走っていると鑑賞すると腑に落ちる。

元朝の御空は広し朱鷺の舞ふ
 初御空が広々しているとはさすが新潟である。その広い空を朱鷺が舞っている光景は美しいものだろう。佐渡の空と思うが、新潟の空にしてもよい。海峡を朱鷺が渡って佐渡からやってくるそんな時代になった。関係者の努力の賜物である。

やはらかき外灯に浮く梅の花
 梅の花の夜の景色である。句のポイントは「柔らかき外灯」をどう理解するかである。街灯は道路の電柱に点く明りであるから、この場合の外灯は庭園に設備された明りである。燈籠などに柔らかな灯が点っているとこの句は生き生きしてくる。